「失敗の本質」旧日本軍の欠陥を通じて組織論を学ぶ❗【お薦め本紹介】
組織論の名著「失敗の本質」
いつも当ブログをお読みいただきありがとうございます。
中小企業診断士試験の攻略法について、【中小企業診断士試験の攻略法】にまとめていますので、是非そちらもご参照ください。
さて、中小企業診断士試験に役立つ書籍紹介の第4弾です❗(他の書籍紹介はこちら)
口述試験の合格発表待ちのフワフワ感を味わいつつ、今年はコロナと試験勉強に明け暮れた1年だったなぁと思い返しながら、読書に励んでおります😃
今回は、少しハードボイルドですが、「失敗の本質ー日本軍の組織論的研究」です❗
日本軍の組織·戦略の検証
第二次大戦において、日本は敗戦を経験したわけで、善悪論として、
- 連合国側に正義はあったのか
- 敗戦国側に正義はなかったのか
といった点については、多くの方々が様々な立場と知見から激烈に論じられております。
また、良し悪しや歴史的意義は別として、あの当時の国力と国際状況の中でアメリカやイギリスと全面戦争を開始したことについて(避けようがなかったとの議論もあるところですが)、国家戦略として「勝てない戦いに踏みこんだ」ことの是非といった観点からの検証や評価も広く行われているところです。
そのような中、本書では、
「そもそも勝てない戦争を始めたこと自体が戦略的に誤り。以上❗総括終わり❗」
ではなくて、全体戦略からレイヤーを一段下ろした「部分」を見ても、戦略的·戦術的誤りが多々あり、そしてそれは今日の日本の行政組織や企業にそのまま継承されてしまっていることが少なくない(本書執筆は昭和50年代ですが、現代でも十分あてはまるところが多いと感じました)という問題意識から、第二次大戦前のノモンハン事件から、戦争末期の沖縄戦までの主要な戦場について、組織論、戦略論的観点から批判的に検証を行っておられます。
分析対象の6つの戦い
本書が分析の対象としている
- ノモンハン
- 国境紛争の局地戦。ソ連軍との地上戦で壊滅的敗北)
- ミッドウェー
- 太平洋戦争の転機。日本軍が主力空母4隻を失い優位性を喪失
- ガダルカナル
- 地上戦における転換点。戦力を逐次投入した日本軍が大敗を喫した
- インパール
- (戦略と計画の欠如の典型。旧ビルマ戦線で無謀な作戦を計画し大損害を出した
- レイテ
- 日本海軍最後の大作戦。目的不徹底で成果を出せず連合艦隊が壊滅
- 沖縄
- 日本陸軍最後の大規模戦闘。住民を巻き込んだ悲惨な戦闘の末に敗北
の6つの戦いに共通するのは
- ①戦略性の欠如
- 長期的視点での一貫した戦略性がなく、限られた資源をバラバラの方向に使ってしまった。
- ②戦略目的の浸透不足
- 司令部と現地軍、陸軍と海軍など、戦闘を行ううえで連携するべき関係者間で、目的や優先順位の認識統一が図られないまま戦闘に突入し、計画からのズレに対する対応がそれぞれの目的に沿ったバラバラな行動になってしまった。
- ③意思決定における合理性の欠如
- 高度に官僚的だったのかと思いきや、人的関係に基づく意思決定がなされており、本来の官僚制の長所であるはずの合理性や効率性が失われ、「まぁ、あいつの顔を立ててここは折衷案でいくか」みたいな意思決定が蔓延。
- ④組織文化の逆機能(集団浅慮)
- 日露戦争の勝利が神格化され、白兵主義と艦隊決戦主義を絶対視する固定観念にとらわれた硬直的な組織文化が醸成され、環境変化への柔軟な対応ができなかった。
といった欠陥です。
日本軍の欠陥の正体
結果がわかってから後出しジャンケンのように当時の意思決定を批判することに若干の後ろめたさはあるものの、それにしても酷い と言いたくなる統率の無能ぶりです。
本来、軍隊組織は、他の組織に比べて命令系統と役割分担がより明確で規則の整備が行き渡った官僚制組織の代表格のようなものだと思っています。
そして、合理性と効率性を追及するための規則重視の組織運営の中で、官僚制の弊害による硬直性をいかに解消し、環境変化への柔軟性を確保していくかが課題というのが一般的な捉え方だと思うのです。
しかし、旧日本軍の司令部レベルでは全くそのようなことはなく、最重視するのは、規則順守ではなく、成果や合理性でもなく、人間関係 つまり「和」なのです😱
本来、官僚制の長所であるはずの合理性や効率性を犠牲にし、その代わりに実現するのが、環境変化への柔軟性ではなく仲間内の面子の維持と立場の保全なのです。
だから、作戦目的の調整でも、作戦計画における問題点の抽出と解決策の検討でも、侃々諤々(けんけんがくがく)の議論が行われず、お互いの面子を重んじて本当に大事な問題と向き合わず、折衷案として全員の意見を何となく詰め込んだ文章だけは美しい実行計画が作成され、(当然のことながら生じる)計画と実際の乖離に直面すると各自がバラバラの判断をしてしまい、ただでさえ見劣りする少ない資源を浪費してしまうということを繰り返すのです。
そして最も罪深いのは、その失敗の度に、多くの下級将校や兵士が犠牲になったことです。ここが、戦略や戦術を誤ることによる損害が大勢の死に直接的に結び付くわけではない企業経営とは異なる重さだと思います。
アメリカ軍との比較
対照的にアメリカは、事前に作戦に参加する各部隊がミッションの目的と優先順位を共有し、誰が正しいかではなく何が正しいかで判断し、それまでの行動規範が古めかしくなっていることを示す兆候が見られたら恐れることなくそれを正面から見つめ、新たな環境に対応するための変化をもたらすダブルループ学習をする素地をもっていました。
そういった組織と、旧日本軍のような組織がぶつかれば日本が競争優位を確保できないことはわかりますよね。
二次試験の事例企業に置き換えると
上で述べたとおり、現代の企業でもよく見られるような欠陥と本質的に共通しているものが少なくありませんよね。
特に、事前に目的や優先順位の明確化と共通認識の確立の努力を怠って、とりあえず案件を動かすために玉虫色の計画書を書いて動き始める なんてことは、私の経験においてもある意味お馴染みの光景です😵
本書は、テーマとして重たいですが、組織論の要素としては、中小企業診断士二次試験の事例Ⅰと親和性の高い内容だと思います。マジで。
もしこれが事例企業として出題されたら、
とかいう設問が出ますよね。きっと。
日本軍に優位性が生じるための条件とは?
ところで、日本軍はダブルループ学習は行わなかったものの、シングルループ学習は継続していました。なので、奇跡的に状況が整って、
- ロジスティクスや補給線の心配がない短期決戦
- 地上戦は白兵戦主体
- 海戦において航空兵力はあくまで補完的位置付けであり大砲を打ち合う艦隊決戦が主体
という条件で戦うことになっていたら、おそらく世界最強だったのだと思います。
その意味では、現実離れしたぐらいにニッチな市場に経営資源を特化させた超差別化集中戦略をとったけど、市場自体がなかった😨というように置き換えられそうな感じですね。
まとめ
以上、本書を通じて、日本軍の敗北の要因となった、組織的欠陥として、以下が挙げられることを見てきました。
- 戦略性の欠如
- ビジョンの欠如又は目的の不統一
- 目的合理性の欠如
- 柔軟性の欠如
これらは、本書執筆時点だけでなく、現代においても、日本企業や官公庁といった組織に、未だに根強く残ってしまっている欠陥ではないかと思われます。
今一度、歴史から学ぶ姿勢が重要なのではないかと思います。
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