税効果会計とは何なのか?(財務会計、事例Ⅳ対策)

税効果会計とは?

適正な税金費用❗

いつも当ブログをお読みいただきありがとうございます。

中小企業診断士試験の攻略法について、【中小企業診断士試験の攻略法】にまとめていますので、是非そちらもご参照ください。

財務会計の試験対策においては、簿記の基本を押さえた後、次なる壁としていくつかの専門的論点が立ちはだかってきます。
今回は、そうした次なる難関となるもののうち、税効果会計について、説明していきたいと思います。
テキストを読んで、問題を解いてみて、何となく正解はできるようになってきたけど、すっきり肚落ちしていない、という状態の方も多い論点ではないかと思いますが、基本的な概念を押さえられれば、変則的な問題が出てきても恐れることはありません。少し長くなりますが、お付き合いいただければと思います。

(複式簿記の基本的な概念については、【複式簿記の基本を理解しよう】でわかりやすく解説していますので、是非ご参照ください。)

税効果会計は何のためにあるのか?

いきなりですが、税効果会計というのは何なんでしょうか?

損益計算書を見て、「税引前当期純利益」の下にある「法人税等」のさらに下にある「法人税等調整額」というのが、税効果会計の結果生まれてきた科目です。
さらに、貸借対照表を見てみると、固定資産の中に「繰延税金資産」とあるか、又は、固定負債の中に「繰延税金負債」というのがないでしょうか。それもまた、税効果会計の結果生まれてきた科目です。

そもそも、損益計算書企業の経営成績を写し出す資料としての意義を持っており、貸借対照表企業の財政状態を写し出す資料としての意義がありますよね。
そこで、それぞれに税効果会計による科目が含まれているということは、

  • 法人税等調整額を計上しなければ企業の適正な経営成績を表せない
  • 繰延税金資産または繰延税金負債を計上しなければ企業の適正な財政状態を表せない

という役割を担っているということが言えそうですね。

では、どのような理由でこれらを反映する必要があるのか、について見ていきたいと思います😃

財務会計と税務会計の差異

財務会計は、各種会計基準に則って日々の取引を記録し、決算時には、引当金や減損損失などの必要な見積を反映させたうえで、企業の成績や状態を表示するものです。

財務会計の目的が、企業の真の姿、状態を表すということにある以上、まだ確定していない権利や義務(特に義務)であっても、その発生を反映しなければ企業の真の姿が歪められてしまうという確度と重要性をもっているものについては、それを反映する必要があります。

例えば、まだ賞与の支払は生じていないけれど、当期の労働への対価という位置付けで来期以降に支払うことがほぼ確実なものについては、賞与引当金という負債として認識するとともに、賞与引当金繰入額として費用計上しておく必要があります。
退職給付引当金なども同じです。

一方、税務会計は、課税の公平性を維持する目的があることから、財務会計のように未確定の収益や費用を反映するのではなく、確定した収益や費用(税務上は益金損金といいます。)によって課税所得を計算する必要があります。

上で例に出した賞与引当金や退職給付引当金などは、未確定な事柄について財務上認識しているだけの費用なので、税務会計上は損金とは認められません。これらは、実際に賞与や退職金を労働者や退職者に支払った時に損金として認める、というわけです。

このように、財務会計上は費用として計上するが、税務上は損金として認められないケースを、損金不算入といいます。

さて、例えば、当期の経営成績が、

収益 200
費用 150
 (うち損金不算入 20)
税引前利益 50

だったとします。この時、税務上の課税所得はというと、財務上の費用150のうち20が損金として認められないわけですから、損金は130ということになり、課税所得は200-130=70ということになります。
ここで、法人税等の税率が30%だったとすると、当期の法人税等の額は、70×30%=21となりますね。なので、上の表の税引前利益50から法人税等21を引いた29が税引後の最終利益ということになります。
めでたし、めでたし。

とはならないのです。
最終利益29というのは、企業の実際の経営成績として不十分な情報です。
なぜなら、財務上は税引前利益は50と言っているのに、法人税等は70の所得(=利益)に対して課せられた数字をそのまま反映させているからです。そう。ダブルスタンダードですね。

では、どうすれば適正な経営成績を表すことができるでしょうか。
税金費用の額を、財務上の利益に対応するように調整してやれば良いのです。

財務上の税引前利益は50ですから、これに対応する税金費用は、本来、50×30%=15となります。実際の法人税等である21よりも6少ないですね。
(本来の財務情報としてあるべき税金費用と実際の法人税等との差額である6というのは、損金不算入額である20に税率30%を乗じることでも計算できます。)
さて、では損益計算書ではどのように表示したら良いでしょうか。強権的に、法人税等を15に置き換えたら良いのでしょうか。それはダメです。実際に税務署に確定申告をして法人税等は21だとなっているわけですから、その情報を勝手に書き換えてはいけません。
そこで、登場するのが、法人税等調整額です。
この科目を法人税等の下に表示し、法人税等と法人税等調整額の合計が財務上に利益に見合った税金費用の額になるように、法人税等調整額に△6を計上すれば良いのです。

その結果、最終利益は35となります。
これで、損益計算書は適正な経営成績を示すようになりましたね。

以上、税効果会計でした❗
で終われるかというと、まだ終われません😃

繰延税金資産とは何か?

損益計算書は適正になったように見えます(実は上の説明は、理解の取っ掛かりとしては良いのですが、理論的に正確ではありません。この項の最後でご説明します。)が、法人税等調整額で利益を動かしている以上、貸借対照表にも何らか反映しないと適正な財政状態を表せませんよね。
そもそも複式簿記は、経済事象を2つの側面で捉えるわけですから、利益だけ動いて「はい、終わり」となるわけもありませんよね。

今回の例でいうと、法人税等調整額は税金費用のマイナス方向(=利益方向)で計上されていますから、貸方への計上です。とすると、相手勘定は借方に入りますね。
利益をこれ以上動かさずに借方に計上する科目と言えば、資産科目でしょうかね。
はい❗正解です❗

ここで登場する相手勘定が繰延税金資産です❗

なので、上の例でいうと、

借方 貸方
繰延税金資産 6 法人税等調整額 6

という仕訳が切られるわけです。

この繰延税金資産という科目は、どういう意味で資産科目なんでしょうか。
良く使われる説明としては、

税金の前払である

というものです。
(後ほど述べるとおりこれも厳密には少し違います。しかし、まずは理解しやすい考え方である「税金の前払」説について説明します)

上の例における、損金不算入の20というのは、翌期以降のどこかのタイミングで税務上損金として認められることになります。その時に財務会計と税務会計の差異はどうなるかというと、財務上の利益よりも税務上の課税所得の方が20少ないということが起こります。上の局面と逆の関係ですね。
ということは、その時の財務上の利益に対応する税金費用よりも、実際に税務署に確定申告する法人税等の方が6少ない状態になるわけです。
ならば、その時の税効果会計としては、法人税等調整額として6を費用側に計上することで適正な経営成績を表示するようにしないといけませんよね。
つまり、法人税等調整額借方に計上するわけですね。そしたら貸方には何が入るのか?
もうおわかりですね😁かつて計上した繰延税金資産を取り崩して貸方に計上するわけです。

仕訳でいうと、こうです。

借方 貸方
法人税等調整額 6 繰延税金資産 6

これって、過去に税金としてキャッシュは支払ったけど費用として認識しなかった6を、後の年度で費用認識する、ということなので、税金の前払とその取崩として理解するとわかりやすいですよ。という考え方なんですね。

しかし、上でも予告しましたとおり、実際には、もう少し複雑です。

前払だったら、支払った際に問答無用で資産計上できるわけですが、繰延税金資産は、将来に税金を安くする(=将来いずれかの時点で損金として認められる)効果を伴う場合にのみ計上できる資産科目です。

引当金繰入のような財務上の費用は、いずれ実際に支払が生じる時点で税務上損金として認められることになります。こうした差異を一時差異といいます。
一方、例えば、寄付金や交際費といった費用項目は、一定額以上になると税務上損金不算入となり、その不算入分が損金として認められるタイミングは永久に来ません。こうした差異を永久差異といいます。

繰延税金資産は、将来の税金を安くする効果がある場合にのみ計上できる科目ですから、一時差異の場合のみ計上できるということになります。(もし永久差異について繰延税金資産を計上してしまったら、永久に取り崩すタイミングが来ないことになってしまいます。)

さらに、まだあります(なんと❗)

将来の税金を安くする効果があるかどうかは、将来に自社が利益を生み出せるかどうかにも影響されます。
翌期に損金として認められる1億円もの一時差異が発生していたとしても、翌期の利益が赤字であれば、そもそも安くするべき税金が発生しませんから、このような場合は、繰延税金資産は計上できません。

この、将来の税金を安くする効果があるかどうかという要件を、回収可能性といいます。

つまり、繰延税金資産とは、厳密には、「税金の前払」ではなく、

将来の減税効果というポジションを保有しているということを表す資産科目である。

ということですね。

と、いうことは、上で、「財務会計上の利益に見合った税金費用にするための調整額」ですよ、というような説明をした法人税等調整額についても、厳密には、

将来の減税効果を財務上認識したよ❗ということを経営成績に反映するための調整額である。

となります😃

繰延税金負債とは何か?

ここまで、将来の税金を安くするパターンの話ばかりしてきましたが、逆に、将来の税金が高くなる場合もあります。

例えば、資産の評価益を認識して財務会計上は利益が発生しても、その時点では税務上は益金に算入されず、課税所得に反映されないような場合があります。
将来その資産を売却する等してその評価益が実現した際にようやく課税所得が発生するのです。
財務上の利益の方が税務上の所得より先に発生するため、この時点では、
財務上認識すべき税金費用>実際に課せられる法人税等
となります。

このため、財務上の利益が発生した時に、これに応じた税金費用を認識するための調整を行い、後で実際に課税される時(その時には逆に財務上認識すべき税金費用<実際に課せられる法人税等となります。)に税金費用を安くするための調整を行う、という処理をすることで、適正な経営成績を表示できます。

ここで、税金費用を調整する科目は先程と同じく法人税等調整額です。最初の発生時点では、法人税等調整額借方に計上するわけですね。
では、その際に貸方に計上すべき相手勘定は何でしょうか。
それが、負債科目としての繰延税金負債です❗

そして、実際に課税された時に反対仕訳を打つわけです。

財務上の利益発生時点

借方 貸方
法人税等調整額 ×× 繰延税金負債  ××

実際に課税される時点

借方 貸方
繰延税金負債 ×× 法人税等調整額 ××

ということですね。

財務上は当期に認識した利益に対応して将来発生することが見込まれる税金費用を、先に費用として計上したうえで負債項目に積んでおく、ということで、引当金と似たような性格ですね。

まとめ

今回は、難解と思われ勝ちな論点である税効果会計について、説明いたしました。

  • 財務会計と税務会計には収益(益金)や費用(損金)の認識時点のズレがあること
  • そのズレによる将来の税金費用の変動を当期の経営成績に反映するべく調整するのが法人税等調整額
  • 将来の税金費用の変動というポジションの保持を当期の財政状態に反映するのが、繰延税金資産又は繰延税金負債

ということでした。

(他の論点に関する記事についてはコチラもご参照ください。)

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