ストーリーとしての競争戦略【お薦め本紹介】
ストーリーとしての競争戦略
いつも当ブログをお読みいただきありがとうございます。
中小企業診断士試験の攻略法について、【中小企業診断士試験の攻略法】にまとめていますので、是非そちらもご参照ください。
本日は、久々のお薦め書籍シリーズとして、「ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件」(楠木建 著)を紹介します。
本書に詰め込まれているもの
本書に詰め込まれているものは大量の知識と斬新な概念ですが、中小企業診断士試験において使えるものに着目して抽出してみても、
- 企業戦略と事業戦略
- 競争戦略における差別化戦略
- 事業のコンセプト設定と、広義のマーケティング
- バリューチェーンの概念
といったものが、練り込まれるように含まれた内容になっていますので、参考になること請け合いです。
さらに、何よりも面白い❗私は、本書でふんだんに展開される著者のユーモアや筆致にハマってしまいました。試験勉強のブレイクダウンとしても、単純に楽しむために読む本としてもお薦めできます😃(他のお薦め本紹介はこちら)
戦略にはダイナミックさが必要
戦略には、
- 企業戦略
- 事業戦略
があります。企業戦略というのは、企業全体として、どの事業のどの部門に経営資源をどれだけ配分するかを決めるものです。言い変えると、どこで利益を確保するのか、どこで勝負していくのか を決めるということです。
特に複数の事業を営む企業にとっては事業ごとの評価と位置付けが重要になります。
これに対して、事業戦略というのは、ある事業において、競合相手に対して競争優位を築くために何を行っていくか ということを決めるものです。正に、ポーターのいう、競争戦略ですね。
覚えてますか?3つの競争戦略。
コストの安さで優位に立つ「コストリーダーシップ戦略」と、製品やサービスの内容で他社にはない独自性を出して差をつける「差別化戦略」と、特定の小規模なニーズに特化して経営資源を集中させることで小さな独壇場を作る「集中戦略」でしたよね。
以下、本書では、主に事業戦略の視点で、「差別化戦略」こそ多くの企業が狙っていくべき戦略であるとの主張が展開されます。
そして、差別化戦略を成功させるために必要な要素として、
- 自社が狙うべきターゲット層の具体的なニーズを明確にする。
- そのニーズに応えるためにあらゆる活動を連携させ一気通貫させる。
ことを挙げています。この、「活動の連携」こそが超重要だということなんです。
世の中には、個別の活動ごとのベストプラクティス的なものを教えて「戦略論」を名乗っている例が溢れています。いわれてみれば確かに、
★店舗拡大のためにフランチャイズ方式をとった方が良いのかどうか
とか、
★ECサイトで販売する場合は物流活動はアウトソーシングした方が良いのか
など、個別の論点について、一般論としてのメリットやデメリットが語られることが多いですよね。でも、本来、経営上の戦略とは、そのような部分的な方法論のスタティック(静的)な組み合わせではなく、全体が一貫性を持ってダイナミック(動的)に繋がり合ったものであるべきだ❗というのが、本書の主張のコアな部分なのです。
正に、ポーター(また!)の書籍紹介(「競争戦略について」)でも触れた、バリューチェーンの概念です。
では、なぜ、活動が連携することがそんなに大事なのでしょうか。まぁ、感覚的には、それぞれバラバラな方向を向いて活動するよりも、同じ方向を向いて活動した方が良いに決まってる ということは想像がつくわけですけど、本書では、その理由について、次に見るようなユニークな解説がなされています。
非合理な施策こそ最良
経営上の活動を一連のものとして捉えると、それを構成する一つ一つの活動におけるベストな手法は企業によって違う ということが導き出せます。ある企業にとってはベストな手法でも、コンセプトや戦略が異なる他の企業にとってはベストでない場合もあるということです。
例えとして、サッカーの戦術に置き換えて考えてみますね。サッカーではチーム毎に、どうやって敵ゴール前までボールを運んでいくかの戦術が違いますよね。そんな中、例えば「ストライカー」という「活動」のベストな形態はみんな同じでしょうか。当然、求められるストライカーのタイプは変わってきますよね。パスを細かくつなぐタイプのチームでは足元の技術の高いストライカーが求められますが、ロングパスで得点を狙うタイプのチームでは長身で競り合いに強いストライカーが求められます。
企業経営もそれと同じで、その企業のコンセプトと戦略によって、個々の活動において重視し優先すべきものが異なってきます。採用すべき手法も当然ながら違ってくるということです。
そして、この考えを推し進めると、他社と全く異なる視点でコンセプトや戦略を打ち立てれば、他社から見れば非合理極まりないような手法が、自社にはベストマッチする という答えに行きつきます。
こちらが競争優位を築いたのを見て、他社がこちらの手法を真似したとしても、コンセプトや戦略全体をコピーするのでなければ、他社にとってはただの非合理な手法となりますよね。というか、そもそも、こちらが採用している手法は非合理に見えるので、真似したいとすら思わない、という状況になりますよね。
これが、著者が非合理な施策を薦めるゆえんです。独自のコンセプトに基づき、全体の活動を連携させることによって、他社が部分的に真似しても意味のない、いや、真似したいとさえ思わない活動を展開して競争優位を築くことができるわけです。
これは正に、バーニーのいう模倣困難性ですよね。
スターバックスの例
ここまで、理論上の話ばかりだったので、本書で、例として用いられていたものから一つご紹介します。
スターバックスコーヒーの例です。
スタバは、職場でも家でもない、第三の場所「サードプレイス」として、ゆったり優雅にくつろげる空間を提供することをコンセプトに据え、すべての活動をこのコンセプトに沿って展開しています。
だから、回転を早めて少しでも売上を伸ばす という通常の喫茶店が求めるやり方は、スタバにおいてはコンセプトの実現を阻害するものとして断固回避すべきものになります。
このため、スタバは、店舗拡充を図った成長期においても、フランチャイズ方式をとりませんでした。一気に店舗数を増やそうと思ったら、フランチャイジー(加盟店)がそれぞれ土地や設備や資金を自分で準備してくれるフランチャイズ方式が優れている というのが飲食業界の定石でした。しかし、加盟店がそれぞれ利益追求すると、回転率を高めるインセンティブが働いてしまい、店内がせわしない空気になって、優雅な「サードプレイス」のコンセプトが崩れるため、スタバにとっては、フランチャイズ方式はベストプラクティスではなかったのです。
このため、スタバは直営店方式で店舗数の拡大を図っていきます。これに対して、「経営の常識がわかっていない」といった指摘が多々なされましたが、スタバの戦略が正しかったことは今や誰の目にも明らかですよね。
正に、定石を無視した非合理な手法により、競争優位を構築した好例です。
【企業経営理論】の観点では
以上で述べてきた本書の内容は、冒頭でもお話したように、中小企業診断士試験の内容(特に【企業経営理論】)との親和性も高いため、試験対策としても十分に役に立つ内容だと思います。
試験範囲と照らし合わせてみると、
- 企業戦略と事業戦略は、そのまま【企業経営理論】の一次試験で頻出の論点。
- ターゲット顧客層とそのニーズの明確化は、コトラーのマーケティング概念の中心。
- 独自のコンセプトによる競争優位の獲得は、そのまま「差別化戦略」。
- 全体の活動の連携はバリューチェーンの概念。
- 活動全体での差別化は、ケイパビリティの概念であり、一次試験頻出論点のVRIO分析における最重要ポイントの「I:模倣困難性」の典型。
まとめ
以上のように、本書は、
- 戦略とは個々の活動をダイナミックに連携させるもの
- 個別の活動が一見非合理に見えるような戦略が最強
ということを、極めて興味深い展開と筆致で、それこそ「ダイナミック」に書き表してくれている良書です。
そして、中小企業診断士試験との親和性も高いため、楽しみながら試験対策ができる という巨大なメリットもあります!
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