事例Ⅳ的に分析❗近鉄グループのホテル売却(中小企業診断士二次試験)

事例Ⅳ的に考える近鉄のホテル売却

コロナを乗り切る❗

いつも当ブログをお読みいただき、ありがとうございます😄

中小企業診断士試験の攻略法について、【中小企業診断士試験の攻略法】にまとめていますので、是非そちらもご参照ください。

今回は、関西私鉄大手の近鉄グループに関するニュースについて、中小企業診断士試験対策に取り組んでおられる皆さんの参考になるよう、事例Ⅳ的な観点から紹介し、練習問題についても提示させていただきます。

(他の練習問題記事についてはコチラをどうぞ❗)

近鉄のホテル売却

関西私鉄大手の近鉄グループが、鉄道事業の他に展開しているホテル事業において、所有していたホテルのうち8ホテルを売却することにしたとのことです。ニュースの詳細は「近鉄が8ホテル売却へ コロナでリストラ加速」(産経ニュース)をご参照ください。

今回の8ホテル売却は、ホテル事業からの撤退を意味するものではありません。売却するホテルについても、ホテルの運営自体は今後も継続するとのことで、運営に特化したビジネスモデルに転換するものです。また、近鉄グループはこの8ホテルの他にも16のホテルを所有し経営しており、これら16ホテルについては今後もこれまで通り資産を保有する形態で経営を続けるようです。

背景と目的

鉄道事業者がホテルやテーマパークといった観光事業に進出することは、シナジーを発揮できる関連多角化の好例として取り上げられることも多い優れた戦略でした。近鉄グループの事業展開は、正にこうした多角化戦略の代表例とも言えるものでしたが、新型コロナという超異常事態により、皮肉にもダブルパンチを食らった格好です。

このような中で、ホテルの土地や設備といった固定資産を手放して運営に特化するのはどうしてでしょうか。主に以下の3つの目的が考えられます。

  • 減損リスク回避
  • 固定費の減少
  • 手許現預金の充実による安全性の向上

減損リスク回避

まず、減損リスクの回避があげられます。

企業会計において、通常は固定資産への投資をすれば、そのコストは、投資時に全額を費用計上するのではなく、その資産が稼働する年数にわたって費用を配分することになります。これを減価償却といいます。例えば、5年間稼働する資産を1億円で取得した場合、減価償却費として毎年2千万円ずつ費用に計上していくということです。

この減価償却は、その資産が収益の獲得やコストの削減という投資効果を生み出すことで、投資額を一定期間にわたって回収していくという考え方がベースになっています。このため、もし、資産投資後の状況変化によって投資効果が見込めなくなり、投資額の回収ができない見込みとなった場合は、回収が見込めなくなった額については、減価償却費として複数年度にわたって費用計上するのではなく、即時に費用として認識する必要があるのです。この会計処理を、減損と言います。

報道によれば、今回売却するホテルの資産価額は、簿価で423億円(2020年3月末時点)とのことです。ホテル資産に投資した際は、もちろん、ホテル事業によって投資額を回収することを見込んでいたはずですが、今回のコロナ禍でホテル事業の採算が悪化する中、十分な回復が見込めなければ、投資回収不可能として減損損失を認識しなければならなくなる可能性がそれなりにあるわけです。既に損益が悪化してきている中で、巨額の減損損失を認識するのは、損益の更なる悪化と、経営体力である純資産が一気に削り取られる結果につながってしまいます。

今回の売却額はまだ明らかではありませんが、簿価を上回る見込みという報道からすると売却損も立たないということですから、売却によって、損益悪化のリスクを回避できた、ということなります。

固定費の減少

ホテル資産を保有していると、固定資産税や維持管理費等の経費が必要ですし、設備が老朽化すれば改修や更新のための支出が必要になり、損益計算上はこれが減価償却費として発生してきます。こうした固定費は、ホテルが順調に稼働しているか否かに関わらず発生する固定的経費です。

近鉄グループにとっては、固定資産を手放すことによって、これら固定的経費が発生しなくなるというメリットがあります。

ホテル運営自体は継続するとのことですので、売却後は賃借料が発生しますし、場合によっては維持管理費を一部負担することはあるでしょうが、稼働が低下した場合に運営から撤退する判断をすれば、賃借を終了させることで賃借料や維持管理費は発生しなくなります。固定費を変動費化できるというわけです。

手許現預金の充実

そして、もう一つ、売却によって手持ちの現金を潤沢にできるというメリットもあります。

近鉄グループは、コロナ禍で、ホテル事業だけでなく、本業である鉄道事業や百貨店事業なども軒並み打撃を受けています。そのような中では、損益の悪化ももちろん問題ですが、とりあえず目先の資金繰りの目処をつけなければ、最悪の場合資金ショートして債務不履行になり倒産、ということにもなり兼ねません。

もちろん、そうした事態を防ぐために、金融機関からの借入による資金調達や、増資による資金の確保という手もあるわけですが、保有資産を売却することによる資金確保というのも非常に有効な手段となります。

特に今後の経済状況が見通せない中で、企業としてはできる限り手許資金を潤沢に保有して資金ショートのリスクを低減しておきたいところです。その意味でも、今回の売却で数百億円のキャッシュが確保できることは、大きな意味がありますよね。

事例Ⅳならこう出題される

事例Ⅳで出題されるとしたら、

「ホテル資産の売却により、財務指標にどのような影響が生じるか述べよ。」

などが考えられますね。

財務諸表上、固定資産が減少して現預金が増加するわけですから、安全性指標である以下の指標が改善することになりますね。

当座比率
当座資産/流動負債で算出される指標です。手許の現金化容易な資産によって短期負債をどれだけ支払えるかという短期安全性を表します。当座比率が高いほど安全性が高く、100%を超えていれば、手許のキャッシュだけで負債へ支払いが可能ということです。今回の資産売却によって、現預金が増加する(負債は特に変動なし)ため、当座比率が高まり、短期安全性が高まりますね。(ちなみに、同じく短期安全性を表す指標である「流動比率」(流動資産/流動負債)も同様に高まります。)
固定比率
固定資産/自己資本で算出される指標です。固定資産に投下された資金は一般的に回収まで長期間を要しますが、この投資資金をどれだけ安全な調達によって賄えているかという観点で長期安全性を表します。自己資本で賄えていれば安全性が高いですから、固定比率は低いほど安全性が高いということになります。今回の資産売却によって、固定資産が減少するため、固定比率が低くなり、長期安全性が高まります。ちなみに、分母に自己資本の次に安全な固定負債を加えた「固定長期適合率」も同様に低くなります。

まとめ

以上、今回は近鉄グループのホテル売却のニュースを、事例Ⅳ的観点から紹介いたしました。

固定資産の売却によって、

  • 固定費削減と減損リスク回避で損益悪化リスクを軽減
  • 固定資産の現金化によって、短期安全性と長期安全性を高める

という効果を狙ってのものであると思われますね。

これからも、中小企業診断士試験対策上、参考になりそうなニュースがあれば、紹介していきたいと思います😃

気に入っていただけましたら、ポチっとしていただけるとうれしいです😄

コメント

このブログの人気の投稿

リース会計を攻略しよう❗

SBGの利益とトヨタの利益は全くの別モノ⁉️

R2年度 事例Ⅱ 第4問の爽やかさよ❗