経営の安定性(事例Ⅰ対策)

経営の安定性

所有と経営

いつも当ブログをお読みいただきありがとうございます。

中小企業診断士試験の攻略法について、【中小企業診断士試験の攻略法】にまとめていますので、是非そちらもご参照ください。

今回は、昨今のニューストピックスである、東芝の買収に関する議論を取り上げ、あくまでも中小企業診断士試験対策の観点から、論点を絞ってお話したいと思います。

安定株主工作

ここしばらく、東芝の買収に関するやりとりで経済ニュースが賑わっています。(ニュース記事:【東芝 物言う株主へ防衛策「政治銘柄」買収に不透明感】(JIJI.COM)

このニュースには、

  • 国にとっての重要事業であることから外国投資家による出資には政府による規制がある
  • 東芝の前社長(買収提案発表時は社長)が買収提案主体の出身であった

などの様々な論点がありますが、今回、中小企業診断士試験対策の観点から取り上げたい論点は、「これは物言う株主からの防衛策である」との報道から見えてくる物言う株主から逃れることの意味です。

物言う株主がいると…

東芝は、不正会計事件後の経営危機の時代を、主に既存事業の売却や縮小を軸とするリストラによって乗り切りつつ、債務超過状態の解消のために投資ファンドからの多額の出資を受け入れました。

この結果、経営の立て直しと債務超過の解消はできたものの、いわゆる「物言う株主」が経営に大きな影響力を持つ状態ができあがりました。

では、物言う株主がいると、何がマズいのでしょうか。

中小企業診断士一次試験の【経営法務】の内容に含まれていますが、株式会社の株主は会社への出資者であり、株主総会において企業経営における重要な決定事項や取締役の選任や解任ができる権利を保有しています(株主の共益権ですね)。
なので、そこで株主の権利を行使することの何が問題なのか、むしろ経営陣がそうした株主の意向に沿わない経営をしているとしたら、エージェントとしての役割を果たしていないということで、そっちの方が問題ちゃうの?という話ですよね。

確かに、これは一面において正しく、会社法上はそのとおりです。

一方で、一般論として、投資ファンドが投資をする場合、彼らはある程度の期間内で投資からの収益を獲得することを望むものです。投資ファンドは複数の投資家から集めた資金で投資をし、投資家へのリターンを得て還元する必要があるわけです。
なので、彼らの論理では、「経営危機を脱したのなら、早く配当なり自社株買いなりで株主に還元しなさい❗」となるわけです。
つまり、積極的に株主還元を行う経営者が、投資ファンドにとっては望ましい経営者なわけです。

企業が事業活動を通じて得た利益をどのように使うかというと、究極的には、事業に再投資する株主に還元するのかのどちらかです。ということは、投資ファンドなどの物言う株主が株主還元を強く求めてきたら、事業への再投資が削られることになるわけです。
あるいは、すぐさま配当や自社株買いを求めてこなくても、長期的な成長が見込まれるが資金回収が先になる事業よりも、短期的に果実が得られる事業への投資を要求する圧力が強くなるのが一般的です。

企業経営者が、長期的視点での事業投資こそがステークホルダー全体にとって好ましいと評価していたとしても、株主の意向に沿わないばっかりに、取締役を解任されてしまうのでは、そうした経営はできません。

これが、経営者が一般的に物言う株主を警戒する理由です。

もちろん、経営者=善、物言う株主=悪、というわけではありません。投資ファンドの短期的利益の追求は出資に見合う要求をしているだけで、本質的に非難されるべきものであるというわけではありません。また、中には、株主の利益を無視して私腹を肥やす経営者だっています。
ですので、東芝の事案はもとより、一般論においても、投資ファンドと経営者の綱引きを善悪論で論じることはできないと思っています。

なので、ここでは、中小企業診断士試験対策の観点から、経営者が首根っこを押さえられていると長期的視点で大胆な経営ができない❗というポイントを押さえておいていただければ、と思います。

 

上場廃止で得られるもの

今回の東芝に関しては、その後もいろいろありまして、2021年4月20日時点では、買収により物言う株主から解放されるかどうかが極めて不透明な状況にあります。

しかし、上で述べたような事情から、経営者が物言う株主を排除して、長期的視点で自由度の高い経営をしようとして成功した事例もあります。
例えば、ドラッグストア大手のキリン堂は、2020年10月下旬にMBO(マネジメントバイアウト。経営者が参加する企業買収。)を成立させ、上場廃止して創業家一族を中心に支配権を安定させることに成功しました。

こうした形で支配権を安定させることで、何が得られるかというと、「経営者が強力なリーダーシップを発揮して、長期的視点で大胆な経営を行うことが可能になる」ということです。(キリン堂に関しては他からの敵対的買収を未然に防ぐためだったという説もありますが。)

中小企業診断士試験では❓

さて、中小企業診断士二次試験では、まあ、上場会社はあまり事例として出題されないでしょうが、類似した状況として、創業家一族の支配が強いか弱いか、という論点はあるかと思います。言い換えると、所有と経営が分離しているか否か、ということですね。

令和2年度事例Ⅰはまさに創業家一族ならではの、経営権が安定しているからこその大胆な経営改革ができていますし、令和元年度の事例Ⅰもそうですよね。他の年度も、基本的には安定した経営権を持っているケースが多いです。
一方、平成23年度の事例Ⅰは、経営の支配権を保有していない経営者が経営を担ってた時期があったように、経営者が安定した所有支配をできているかどうかは、二次試験における出題論点にもなっているわけです。

所有と経営が分離していないオーナー経営である場合のメリットは、上で述べたように、

  • 強力なリーダーシップと長期的視点で大胆な経営ができる
  • 後継者が親族であれば社内外の納得を得やすい

で、デメリットは、

  • 人事が不透明になり社内に閉塞感が生じる
  • 適正のない者が親族というだけで後継者になってしまうリスクがある

などがあります。

逆に所有と経営が分離している場合のメリットは、

  • 客観的で合理的な経営が可能
  • 客観的で透明な人事により社員のモラールが向上する。

で、デメリットは、

  • 経営者がリーダーシップを発揮しづらく短期的視点での経営を余儀なくされる
  • 後継者争いが生じる

などがあります。

事例Ⅰで、「A社長がMBOにより外部株主から株式を取得したことは、A社の経営においてどのようなメリットとデメリットをもたらすと考えられるか。」と出たら、上のメリデメのような感じの解答要素を答えるということですね。

(その他の二次試験練習問題の記事はコチラをご参照ください。)

まとめ

以上、今回は、東芝のニュースやキリン堂の事例を入口に、中小企業診断士二次試験での論点の一つである、経営の安定性=所有と経営の分離、について、そのメリット·デメリットを見てきました。

経営者が長期的視点で戦略的に経営ができるかどうか、というところが最大のポイントということでした。

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