事例Ⅳの視点から❗日本郵政の特別損失について

日本郵政の特別損失

投資と撤退❗

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中小企業診断士試験の攻略法について、【中小企業診断士試験の攻略法】にまとめていますので、是非そちらもご参照ください。

さて、今回は、日本郵政が豪州の物流子会社の事業のうち、不採算の一部事業を売却するとの報道があったことを受けまして、中小企業診断士 二次試験 事例Ⅳ的な観点から、このニュースの意味を解説してみたいと思います。

日本郵政の事業売却

今回の題材は、日本郵政グループが、豪州の物流企業の一部を売却することとし、これに伴って特別損失が発生する、というニュースです。(詳細は、日本郵政、豪トール事業売却 特損674億円、郵便社長「重く受け止める」(時事通信)をご参照ください。)

まず、売却に至った経緯や理由を整理したうえで、財務上のインパクトを見ていきたいと思います。

なぜ売却する?

今回、日本郵政が売却することとしたのは、トール·ホールディングスというオーストラリアの物流大手で、2015年に日本郵政が6,200億円で買収した企業です。

買収時は、日本国内の郵便事業が先細ることが見えている中で、海外事業に打って出るという趣旨の、攻めのM&Aだったわけですが、当時から、高値掴みという評判は出ていたようです。

想像するに、日本郵政としては、長く郵便事業を行ってきたノウハウを有する中、日本国内という縮小市場から、新たな市場へと事業を拡大する新市場開拓戦略を採用することとし、豪州での物流だけでなく、アジアを中心とした国際貨物や倉庫管理といった事業も保有するトール社を買収したのだと思います。自社の強みである郵便事業ノウハウを活用し、シナジーや範囲の経済を効かせて生産性を向上させ、成長する海外市場の物流需要を取り込んで企業価値を高めることを狙っていたのでしょう。

しかし、そのための買収額が高すぎて、巨額の投資に見合った成果が上げられない状態が続き、特に豪州の物流事業は、有効なシナジーが発揮できずに不採算事業になってしまっただけでなく、豪州経済の減速による影響も受ける中、コロナ禍でとどめを刺され、売却のやむ無きに至ったという状態です。

一方で、国際貨物事業や倉庫管理事業は売却せずに継続して展開していくとのことで、これらについては、現時点で成算があるということでしょうか。うまく国内事業とノウハウや経営資源を共有するシナジー発揮の施策を打たないと、結果的に競争力を維持できずに撤退という結果になりかねませんから、日本郵政としては、ここからが第二の勝負どころですね❗

今回の特別損失とは?

さて、報道では、今回の売却額は約7億円で、特別損失が674億円ということです。

上で述べたように、日本郵政は2015年にトール社を6200億円で買収していますが、当時も高値掴みと言われたように、フラットな買収価格ではなかったようです。

ということで、ここで、財務会計に関する問題です。簿価を上回る価格で企業を買収した場合、連結決算においてはどのように処理されるのでしょうか

答えは…、そうです❗のれんですね❗
買収した企業の資産·負債を買収時点における時価で評価し、「資産-負債」を買収企業の時価評価純資産として、買収価格との差額をのれんとして資産計上するのです。

例えば、資産100億円負債30億円時価評価純資産が70億円である企業を90億円で買収した場合、差額の20億円は超過収益力を期待した将来に向けた投資という考えで、連結貸借対照表においてのれん20億円が資産として計上されるというわけです。

日本郵政によるトール社買収時には、高値掴みと言われるだけあって、多額ののれんが計上されました。4年前の報道になりますが、【日本郵政がトール社関連損失4000億円計上、会見全文】(Logistics Today)を見てみると、5,048億円ののれんが計上されていたようですね。買収価格が6,200億円でしたから、買収時点でのトール社の時価評価純資産は1千億円ちょっと、ということになりますね。
また、同じく4年前の報道で示されているとおり、その後、豪州経済の不振等の影響によって、トール社の収益性が低下したため、2017年3月期決算にて、その時点におけるのれん残高全てについて、減損損失を計上しています。
と、いうことは、現時点においてもはやのれんの残高はなくなっており、今回の特別損失は、実際の事業用資産(及び負債)の簿価と売却価格との差額ということになります。
冒頭でお示しした今回の報道において、売却額が約7億円で、特別損失が674億円ということですから、現時点での豪州物流事業の資産は681億円ということですね。帳簿上、それだけの価値があるとされる資産をわずか7億円で売却するわけで、巨額の損失の発生とともに、過去の投資判断の是非が問われる状況にあるということです。

事例Ⅳで出題されるとしたら?

では、事例Ⅳ的にはどういった出題が考えられるでしょうか。
例えば、

「今回の売却によって、どのような財務的影響が生じると考えられるか」

と来たら、どう答えるか。

豪州物流事業の資産を仮にほぼ固定資産であると考えると、売却によって、固定資産が大きく減少し、損失発生によって自己資本も減少しますね。

なので、財務指標として、自己資本比率が低下します。

また、固定資産と自己資本がほぼ同規模で減少するため、固定比率(固定資産/自己資本)がもともと100%以上(安全性が低い状態)であった場合は、さらなる悪化、もともと100%未満(安全性が高い状態)であった場合は安全性が高まることになります。
日本郵政の有価証券報告書を見ると、2020年12月末時点で、固定資産が約3兆円、自己資本が約11兆円のため、固定比率は低下(安全性は高まる)方向に動くようですね。

そして、固定資産が減少する一方で、もともと経営不振の事業であったことから売上減少の影響はそれほど大きくないかと思いますので、効率性を表す固定資産回転率は向上することになります。

以上より、

「自己資本比率の低下により安全性が悪化する一方、長期安全性を示す固定比率と効率性を示す固定資産回転率は改善する。」

といったところでしょうか。今回の事業売却は、一時的に多額の損失が発生しますし、今後の成長戦略の狂いも無視できないところではありますが、もともと潤沢な自己資本を有する企業のため、総じて見ると、財務的影響は致命的ではなく、不採算事業を切り離すことで身軽な財務体質になる印象ですね。

まとめ

以上、今回は、日本郵政の豪州物流事業売却を題材に、連結会計に関するのれんや、資産の廉価売却による財務的影響について触れてみました。

冷静な投資判断というのがいかに難しく、アテが外れた場合にいかにインパクトが大きいか、ということがわかりますね。
同時に、超巨大企業ですから、短期的に存亡の危機に陥ることはなさそうだ、ということもわかります。

今後とも、気になったニュースなどを、中小企業診断士試験対策の視点から、ドンドン取り上げていきたいと思います。
(他の練習問題記事はコチラをどうぞ)

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